【失敗談】測量ミスでクビ寸前だった俺が工事部長になれたワケ

俺がまだ、ヘルメットの顎紐をきつく締めることしか能がなかった20代の頃。
たった一つの測量ミスで、現場全体を止めてしまったことがある。

「お前、もう明日から来なくていい」

当時の所長にそう言い渡された時の、足元から崩れていくような感覚は30年近く経った今でも忘れられない。
まさに、クビ寸前だったんだよな。

現場は生き物だ。
図面通りに進むことなんてまずないし、予期せぬトラブルは日常茶飯事だ。
だが、あの時の失敗は、そんな次元の話じゃなかった。
完全に俺の、たった一人の未熟さが原因だった。

この記事を読んでくれている君も、もしかしたら今、仕事の壁にぶつかって悩んでいるかもしれない。
「自分はこの仕事に向いていないんじゃないか」なんて、一人で思い詰めているかもしれないな。

だからこそ、聞いてほしい。
クビ寸前だった俺が、どうやってそのどん底から這い上がり、今こうして工事部長としてマイクを握れているのか。
これはただの昔話じゃない。
君が失敗を恐れず、明日への一歩を踏み出すための、俺からの魂のメッセージだ。

クビ寸前の失敗体験

測量ミスが現場に与えた影響

あれは、都心に建つ中規模なオフィスビルの現場だった。
俺は入社3年目。
少しだけ仕事を覚えて、いい気になっていた頃だ。

任されたのは、基礎工事の要となる遣り方(やりかた)という作業。
つまり、建物の正確な位置を地面に記す、全ての基準となる重要な仕事だ。
その日の俺は、いくつかの作業が重なって少し焦っていた。
「これくらい大丈夫だろう」
そんな根拠のない自信が、確認作業を疎かにさせたんだ。

結果は、悲惨なもんだった。
俺が出した基準点が、設計図面から50mmもズレていた。
たかが5cmと思うか?
現場での5cmのズレは、建物の根幹を揺るがす致命的なミスなんだ。

そのズレに誰も気づかないまま、基礎の鉄筋が組まれ、型枠が建てられていく。
数日後、別の班の測量でミスが発覚した時には、もう手遅れだった。
組まれた鉄筋はすべて解体。
建てた型枠もすべて撤去。
現場は完全にストップし、工期は遅れ、会社は何百万という損失を被った。

叱責と絶望の中で感じた自分の未熟さ

現場事務所に響き渡る、鬼軍曹と呼ばれた所長の怒声。
「高橋!てめぇ、何やってんだ!」
灰皿が飛んでこなかっただけ、マシだったかもしれないな。

俺は、何も言い返せなかった。
ただただ、自分の未熟さと甘さが情けなくて、涙も出なかった。
現場の職人さんたちの、冷たい視線が突き刺さる。
彼らが汗水たらして組み上げたものを、俺の一つのミスが全部パーにしてしまったんだ。

その夜、独りになった宿舎の部屋で、本気でこの業界を辞めようと考えた。
人の命と財産を守る建物を造る仕事に、俺みたいな半端な人間が関わっちゃいけない。
そう、本気で思ったんだ。

先輩や職人たちの支えと救いの手

翌朝、辞表を懐に忍ばせて現場へ向かった。
だが、俺を待っていたのは、罵声じゃなかった。

「おい、高橋!いつまで落ち込んでんだ!」
普段は口うるさい鉄筋屋の親方が、俺の頭をヘルメットの上からひっぱたいて言った。
「ミスしねぇ人間なんかいねぇんだよ。問題は、この後どうするかだろ。さっさと手伝え!」

見ると、昨日まで俺を睨みつけていた職人さんたちが、黙々とやり直しの作業を始めていた。
いつもは憎まれ口ばかり叩いている先輩も、新しい測量機器を準備しながら俺に言った。
「一人で抱え込むな。分からねぇなら、分かるまで聞け。俺たちはチームだろうが」

その言葉に、堰を切ったように涙が溢れた。
俺は一人じゃなかった。
この現場は、たくさんのプロフェッショナルが集まる一つのチームだったんだ。
その当たり前の事実に、俺はようやく気づかされた。

失敗から学んだ現場の基本

「段取り八分、仕事は二分」の本当の意味

あの失敗から、俺は現場の格言の本当の意味を骨の髄まで理解した。
「段取り八分、仕事は二分」
これは、ただ準備をしっかりやれ、という意味じゃない。

  • 作業手順の確認:本当にこの手順で問題ないか?
  • 図面の読解:設計者の意図を正確に汲み取れているか?
  • 関係者との連携:次の工程を担当する職人さんと話はできているか?
  • 自分の体調管理:焦りや疲れはないか?

これら全てが「段取り」なんだ。
あの時の俺は、目の前の作業をこなすことしか考えていなかった。
仕事の全体像を把握し、あらゆる可能性を予測して準備する。
それこそが、プロの仕事の8割を決めるんだと、身をもって学んだ。

安全・品質管理は数字以上に“人”が担う

安全管理や品質管理というと、書類や数値をイメージするかもしれない。
もちろん、それも大事だ。
だが、本質はそこじゃない。

結局、最後の砦は「人」なんだよな。
あの時、俺のミスを最終的に見つけてくれたのは、最新の機械じゃなく、ベテランの測量士の「ん?なんかおかしいな」という長年の勘だった。

現場に神様はいない。
いるのは、一つ一つの作業を丁寧に行う人間だけだ。

これは、俺が新人の頃に叩き込まれた言葉だ。
どんなに立派なマニュアルがあっても、それを使う人間がいい加減だったら意味がない。
一人ひとりが「これで本当に大丈夫か?」と自問自答し、仲間を気遣う心を持つこと。
それこそが、最高の品質と安全を生み出すんだ。

チームワークが現場を動かす原動力

建設現場は、オーケストラみたいなもんだ。
設計、鳶、鉄筋、型枠、電気、設備…それぞれが専門分野のプロ。
施工管理は、その指揮者だ。

誰か一人が勝手な音を出せば、全体のハーモニーは崩れてしまう。
俺のミスは、まさに不協和音だった。
だが、あの時、仲間たちが俺のミスをカバーし、もう一度正しいメロディを奏でようとしてくれた。

報告・連絡・相談、いわゆる「報連相」が大事だなんて、耳にタコができるほど聞かされてるだろう。
でもな、本当に大事なのは、その根底にある信頼関係なんだ。
「こんなこと聞いたら馬鹿にされるかな」なんて思わずに、何でも話せる空気。
ミスを隠さず、すぐに報告できる正直さ。
それこそが、現場というオーケストラを最高の演奏に導く原動力なんだぜ。

挫折を糧にしたキャリアの転換点

若手から信頼されるリーダーへ

あの失敗を乗り越えてから、俺の仕事への向き合い方は180度変わった。
分からないことは、プライドを捨てて職人さんにも頭を下げて教えを乞うた。
誰よりも早く現場に来て、誰よりも遅くまで図面と向き合った。

そうしているうちに、いつしか周りの見る目も変わっていった。
「高橋に任せれば大丈夫だ」
そう言ってもらえるようになった時、俺は初めて、この仕事の本当の面白さが分かった気がした。

リーダーになってからは、特に若手の声に耳を傾けるようにしている。
俺みたいな遠回りはしてほしくないからな。
失敗を責めるんじゃなく、なぜそうなったのかを一緒に考える。
そして、次にどうすればいいかを、本人が気づくまでとことん付き合う。
それが、あの時助けてくれた先輩たちへの、俺なりの恩返しだと思っている。

「鬼軍曹」から受け継いだ現場哲学

俺を怒鳴りつけた、あの「鬼軍曹」の所長。
実は、俺が辞めずに済んだのは、所長が会社の上層部に頭を下げてくれたからだと後で知った。
「あいつは必ず、この借りを現場で返す男です」
そう言って、俺を守ってくれたらしい。

厳しさの奥にある、深い愛情。
その背中から、俺はリーダーとしての覚悟を学んだ。
責任は全て自分が取る。だから、お前たちは思いっきり挑戦しろ。
言葉ではなく、態度でそれを示す。
俺が今、部長として一番大切にしている哲学だ。

新しい技術(BIM・ドローン)の導入と現場改革

俺みたいな叩き上げの人間は、新しい技術に疎いと思われがちだ。
だが、俺はBIMやドローンの導入には誰よりも積極的だ。

なぜか?
それは、これらの技術が、かつての俺のような若手のミスを未然に防ぎ、現場の安全性を格段に高めてくれるからだ。
BIMを使えば、設計段階で干渉チェックができるから、現場での手戻りが劇的に減る。
ドローンで測量すれば、危険な場所に人が立ち入る必要もなくなる。

伝統的な工法や職人の技も、もちろん尊重する。
だが、変えるべきものは、勇気を持って変えていかなきゃいけない。
旧態依然としたやり方に固執して、若手が潰れていくような業界に未来はないからな。
ベテランの経験と、新しい技術。
その二つを融合させることが、これからの建設業を強くすると、俺は信じている。

最近では、俺たちのような現場の人間をテクノロジーで支えてくれる専門の会社も増えてきた。
例えば、建設業界のDXを力強く推進しているBRANUのような企業は、これからの業界にとって心強い存在だよな。

工事部長として伝えたいこと

失敗を隠すより、共有して学ぶ姿勢の大切さ

この記事で、俺は自分の恥ずかしい失敗を包み隠さず話した。
なぜなら、失敗は隠すものではなく、共有して学ぶべき財産だからだ。

一つの失敗の裏には、たくさんの教訓が隠れている。
それを個人の中にしまい込んでしまったら、組織は成長しない。
「俺も昔、こんな失敗をしたよ」
そうやってベテランが胸襟を開けば、若手も安心して自分のミスを報告できる。
そういう風通しの良い文化を作ることが、俺たち上に立つ人間の役目なんだ。

現場の“ホンネ”を未来にどうつなぐか

建設業界は、3Kだとか人手不足だとか、厳しい現実があるのは事実だ。
だが、俺はこの仕事に誇りを持っている。
地図に残る仕事。
人々の生活を、社会の基盤を支える仕事。
こんなにダイナミックで、やりがいのある仕事は他にない。

この仕事の魅力や、現場で働く人間たちの熱い想い。
そういった“ホンネ”の部分を、俺たちベテランがもっと伝えていかなきゃいけない。
厳しい現実から目を背けず、それでもなお、この仕事がいかに素晴らしいかを語り継いでいく。
それが、未来の担い手を育てることに繋がると信じている。

君ならどうする?若手への問いかけとエール

ここまで読んでくれて、ありがとう。
最後に、君に一つ問いかけたい。

もし君が、大きな失敗をしてしまった時、どうする?
一人で抱え込んで、辞めることだけを考えるか?
それとも、勇気を出して仲間に助けを求め、その失敗から何かを学び取ろうとするか?

正解は一つじゃない。
だが、俺は後者を選んだから、今ここにいる。
君にも、そうなってほしいと心から願っている。
君は一人じゃない。
周りを見渡せば、必ず君を支えてくれる仲間がいるはずだ。

だから、失敗を恐れるな。
目の前の壁から、逃げるな。
その壁を乗り越えた時、君は昨日よりもずっと強く、たくましい技術者になっているはずだから。

まとめ

俺のキャリアの原点は、あのクビ寸前の測量ミスだ。
あの絶望があったからこそ、今の俺がある。

この記事で伝えたかったことを、最後にもう一度まとめておく。

  • 失敗は成長の糧:失敗から目を背けず、そこから何を学ぶかが重要だ。
  • 段取りが全てを決める:仕事の8割は、見えない部分の準備で決まる。
  • 現場はチームで動く:一人で抱え込まず、仲間を信じて頼ること。
  • 技術は人を助ける:新しい技術を積極的に学び、安全と品質を高めよう。

結局、どんなに技術が進歩しても、この仕事の真ん中にあるのは「人」と「想い」なんだよな。
建物に魂を込めるのは、俺たち人間だ。

未来を担う仲間たちへ。
君たちがこの仕事に誇りを持ち、長く活躍できる業界を創っていくのが、俺の最後の仕事だと思っている。
現場で会える日を楽しみにしているぜ。

最終更新日 2025年8月31日